3. 技術者教育の質的保証と継続的向上
技術者を取り巻く環境の急激な変化,すなわち,ダウンサイジングに伴う企業内教育の縮小やアウトソーシングヘの依存など,日本型企業構造の軟化を見逃してはいけません.地球環境・エネルギー資源問題など人類社会の持続可能性に対する技術への期待が高まる一方で,技術が及ぼした社会に対する負の効果も注目されています.技術が対象とする課題はその規模がますます広範となり,及ぼす影響は深刻化し複雑化しています.技術者教育の外部認定が必要とされる背景にはこのようなものがありますが,むしろわが国の高等教育機関における教育のあり方が厳しく問われていると考えるべきです.たとえば,
- 学生の多様化と学習意欲の低下―自己学習不足,応用力・本質的理解不足,設計能力不足など
- 卒業生の質的保証を行うことに対する理解不足と認識の甘さ
- 技術者教育の不足―Engineering Sciences(工学基礎)教育への偏重と座学重視
- 日本社会では技術者は会社に属するエンジニアであって,個としての自立した技術者(プロフェッショナルエンジニア)であるという意識の欠如
などがあげられます.JABEE認定基準は,基準1-6と補則としての分野別要件から構成されています(JABEE,2004).
- 基準1 学習・教育目標の設定と公開
- 基準2 学習・教育の量
- 基準3 教育手段
- 3.1 入学および学生受け入れ方法
- 3.2 教育方法
- 3.3 教育組織
- 基準4 教育環境
- 4.1 施設,設備
- 4.2 財源
- 4.3 学生への支援体制
- 基準5 学習・教育目標達成度の評価
- 基準6 教育改善
- 6.1 教育点検システム
- 6.2 継続的改善
- 補則分野別要件
JABEE認定基準には,
- 認定は強制ではなく,技術者教育の実施主体である学部・学科・専攻・コース等の希望により実施する.
- JABEEによる外部認定は技術者教膏に対する規制ではない.技術者教育の独自性・多様性・革新性を阻害するものでもない.
- 教育だけでなく,学生が自発的に自主的に能力開発に励むこと,すなわち学習を重視する.21世紀の技術者に求められる素養,能力と倫理意識を獲得できるように学習・教育の改善に取り組む.Galileo Galileiは"I cannot teach students, but help them to learn."という名旬を残したと言う.
などが共通な基本精神として含まれており,
- 学生に対する責任として,技術者教育の実施主体は独自の学習・教育目標を明らかにし,設定し開示するだけでなく,学生が理解できるように様々な工夫をおこなうこと.
- 教育成果を上げるために必要な十分な数の教員が存在し,教育支援体制と環境が備わっているだけでなく,教員の質的向上をはかる仕組み(ファカルティディベロップメント)や教員間のネットワークか存在していて機能していること,教員の教育に対する貢献度の評価が実施されていること.
- すべての科目について,公開されたシラバスに記載された方法と基準にしたがって,学生の達成度が公正に評価されていること.さらに,教育の実施主体(プログラム)が掲げる学習・教育目標に対する達成度を総合的に評価するシステムが存在し,機能し,学習・教育目標を達成した学生だけに卒業・修了が認められていること.
などの重要性・必要性が提起されています.いずれも,従来のわが国の教育プログラムには備わっていなかったこと,機能していなかったことであると認めざるを得ません.これらの重要性・必要性は,JABEE教育認定システムには関係なく,本来認識されるべきものであり,現行の技術者教育実施主体に対して,継続的改善への対応と取組が求められています.