地理学教室のJABEEへの取り組み

はじめに

 東京都立大学理学部地理学科は,2004年にJABEE(日本技術者教育認定機構)の「地球・資源」分野で初の教育プログラムの一つとして認定を受けました.2003年度と2004年度には,それぞれ13名と27名のJABEEプログラム修了生を輩出しました.このページでは,地理学には縁遠いと思われがちな技術者教育のプログラムとして当学科が認定を受けるに至った経緯と教育改善の取り組みを紹介します.

JABEE 受審の経緯

 当学科がJABEEへの取り組みを始めたのは2002年度からです.当時はJABEEも設立から間もない時期で,地理学界はもとより理学系の分野でも未だあまり知られていなかったため,手探りの状態で試行審査の準備を開始することになりました.そうした状況下で当学科が受審を決めたねらいは,当時進行しつつあった大学改革の中で地理学科の独自性と存在感を確保することと並んで,年々厳しさを増す就職戦線で技術士補(修習技術士)の資格が学生の就職にとって有利になると判断されたことがあげられます.また,文理融合型のカリキュラムをもつ地理学科にとって,JABEEの認定基準の重要な要素となる学習教育目標や学習保証時間の中で,理工系だけでなく人文社会系の科目が相当なウェイトを占めていたことも好都合でした.

教育改善への取り組み

 2002年度の試行審査では,いくつかの審査項目で不備が指摘されたため,翌年からそれらの改善に向けて準備が進められました.とくに,受審に際して学生の達成度を証明する試験の答案やレポート類の保存,教育改善の取り組みの記録などが必要になるため,新たに教員の負担も増大しました.またカリキュラム自体に大きな変更は加えなかったものの,理工系の必修科目が増えたために学生が履修できる科目の選択の幅が狭まったことは否めません.しかし,なんとか翌年の本審査にこぎつけることができたのは,当学科がもともと変革に柔軟に対応できる体制と規模を備えていたからかもしれません.


 具体的な教育改善の取り組みとしては,シラバスの充実や学生による授業評価だけでなく,教員相互の授業参観・評価,卒論のテーマ公募などを実施しました.これらはFD(Faculty Development)の一環として行ったもので,教員の意識改革や審査する側の教員自身にとっての指導法の改善に一定の効果があったようです.また,技術者倫理やデザイン能力といった,従来の地理学では顧みられることが少なかった側面に改めて眼を向けるよい機会となったことも確かです.

大学改革と技術者教育の課題

 2005年4月から本学は,都立の4大学を統合した「首都大学東京」として再スタートをきることになりましたが,地理学科は工学系の学科とともに都市環境学部に所属し,名称も「地理環境学科」に変わりました.また,全国的な大学改革の流れを受けて,新大学でも実学に重きをおいた再編が実施され,研究のみならず教育面での評価も重視されることになりました.はからずも当学科が選択したJABEEの方針は,そうした動きを先取りする形になりました.とくに,JABEEが重点をおく,社会の要請をふまえて問題を解決するデザイン能力の育成では,地理学の応用面での有効性が試されることになるでしょう.


 ただし,JABEEの認定を受けたとはいえ,今後の見通しは決して楽観視できません.なぜなら,認定プログラムを維持するには,数年おきに中間審査を受ける必要があり,審査資料の作成のみならず審査・認定維持費用の負担は,決して小さくないからです.また,社会の要請の変化や学生の要望に応えながら,たえず教育改善が求められるため,教員と学生の理解と協力が得られなければプログラムの維持は困難になるでしょう.


 こうした取り組みが将来どう評価されるかはわからないが,少なくとも日本の大学をめぐる混迷した現状に対応するには,社会との接点で研究・教育を再点検する必要性があることは確かです.当学科にとってJABEEへの取り組みは,そのきっかけを与えてくれたことは間違いありません.