はじめに
1980年代,景気後退期にあったアメリカでは「不景気は教育のせい」という議論が支配し,
1932年以来の歴史を持つ技術系高等教育機関の認定制度である ABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)の基準見直しが行われました.
バブル崩壊後の日本でも同様な観点から, 日本技術者教育認定機構
(JABEE,Japan Accreditation Board for Engineering Education)が
1999年11月に正式に発足しました.
ここではJABEEプログラム認定の役割と意義およびその審査の手順について,
山冨(2002)と金田(2002)に基づいて解説します.
1. 技術者教育認定機構の設立
1997年7月,日本工学教育協会と日本工学会が共同して,大学・学協会,当時の文部省,科学技術庁,通産省,経団連などに呼びかけを行い,
「国際的に通用するエンジニア教育検討委員会」(委員長:吉川弘之)を発足させました.
これは,言ってみれば日本版ABETをどのように立ち上げるかを検討する組織でした.その後さらに準備が進んで,
1999年2月に工学系の学部,大学および学協会あてに技術者教育認定制度案が配布され,検討の依頼が行われました.
また同時に技術者教育の外部認定を担う第三者民間機関である日本技術者教育認定機構(JABEE)について,
設置を念頭に置いた設立趣旨の説明が行われました.提案に対して寄せられた意見を参考にしながら,
制度と認定プロセスの修正を行い,11月19日にJABEEが発足しました.JABEEには,設立当初から多くの学協会が参加してます.
2004年4月現在,JABEEに参加している学協会の数は90近くあり,2002年度のJABEE認定基準に含まれている分野数は14を数えています.
そして,JABEEは技術者教育の質的同等性を,国境を越えて相互に承認し合う協定である,
ワシントン協定(Washington Accord)への加盟を目指しています.1989年に発足したワシントン協定には,
アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・アイルランド・ニュージーランド・香港・南アフリカの8ヶ国が加盟しており,
これらの国々の間ではそれぞれの技術者教育認定システムの同等性を相互承認しています.
JABEEは2001年6月のワシントン協定総会において暫定加盟が認められ,2003年総会における正式加盟を実現しました.
2. 技術者教育認定の目的とJABEEの役割
技術者教育認定の目的とJABEEの役割は,
- 統一的基準に基づいて理・工・農学系大学における技術者教育プログラムの認定を行い,
教育の質を高めることを通じて,わが国の技術者教育の国際的な同等性を確保し,
- 理・工・農学系大学における技術者教育プログラムを技術者の標準的な基礎教育と位置づけ,
国際的に通用する技術者育成の基盤を担うことを通じて社会と産業の発展に寄与すること
と認識されています(大橋,2002).
JABEEは教育プログラムの認定を通じて技術者教育の向上を実現し,その国際的同等性の確保を目指しています.
認定の対象は教育そのものであり,実施の責任は大学等の高等教育機関が担っています.
図1の左の輪はJABEEが対象とする学士レベルの技術者基礎教育を示しています.
一方,技術者基礎教育=IPD(Initial Professional Development)の充実を通じて技術者の能力が高まり,
国際的に通用する専門職(プロフェッショナルエンジニア)としての技術者か多く誕生するようになれば,技術者個人のチャンスを拡大するのみならず,技術力強化を通じて社会と産業に貢献することができます.
またそのような技術者か,プロのあかしとしての「技術者資格(技術士)」を取得するようになれば,
技術の社会に対する責任が一層明確な形で担保されるようになります.これが図1の右側の輪で示される技術者キャリアに関わる部分であり,
その活動は主として産業界の中で行われています.また,このようにして技術者の社会的認知が高まり,職業としての魅力が増すと,
意欲ある若者が技術者の道を志すようになります.これが高等教育機関における教育活動にフィードバックされ,その一層の活性化が期待され ます.
JABEEは教育と技術者キャリアの二つの輪が車の両輪のように均衡を保って支え合う全体像を描きながら,
教育認定を通して高等教育機関における技術者教育の向上を主務としています.